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鍼灸と逆子②

2025.02.14

こんにちは!セドナ整骨院千葉駅前院の佐々木です。
今回は「逆子に対する鍼灸治療における臨床研究、またそのレビュー」についてお話させていただきます。
最後までお付き合い頂けますと幸いです。

◎逆子に対する鍼灸治療における臨床試験、またそのレビュー

前回はまず逆子に関するお話をするにあたって逆子の定義や種類についてお話させていただきました。
今回は、本題でもある鍼灸治療の効果の程にフォーカスを当ててお話させていただきたいと思います。


・逆子に有効とされる「至陰」のツボ
鍼灸で逆子の矯正を試みる際、最も重要なツボとされているのが「至陰(しいん)」です。今回ご紹介した研究の中でもほとんどが使用しています。今回は使用された経穴については割愛させて頂きますが、次回改めて記載させて頂きます。

場所: 足の小指の外側、爪の生え際
作用: 体内の気血の巡りを改善するとされる
至陰への灸治療を行うことで、胎動が活発になり、赤ちゃんが自然に回転しやすくなると言われています。


・鍼灸のメカニズム
では、なぜお灸が逆子の矯正に効果があるのでしょうか?

血流促進: お灸によって体、特に下肢や子宮の血流が改善し、体の冷えがとれることにより胎児が動きやすくなる
副交感神経の活性化: リラックス効果により、全身の過剰な緊張を和らげる
胎動の促進: 胎児の動きを促し、自然に頭位へ回転する可能性を高める


鍼灸の逆子矯正効果について、いくつか実際の研究を例にあげてみていきましょう。


・JAMA掲載のランダム化比較試験(Cardini & Weixin, 1998)
Cardiniら(1998)の研究では、妊娠33〜35週の逆子妊婦130名を対象に、至陰への灸治療を行ったグループ(65名)と、何もしなかった対照群(65名)を比較しました。

結果:

治療群(灸治療を行った群)の逆子矯正率は75%(49/65人)
対照群(何もしなかった群)の逆子矯正率は47%(31/65人)


研究者の見解:

灸治療が逆子矯正に有意に効果的であることを示したとし、鍼灸治療が逆子妊婦に対して非侵襲的かつ安全な選択肢となり得ることを強調しました。また、この治療法が、帝王切開を回避するための効果的な方法の一つとして注目されています。


・ Liuらによるシステマティックレビュー(2015)
Liuら(2015)の系統的レビューとメタアナリシスでは、鍼灸が逆子矯正において有意に効果があることが示されています。特に、至陰への灸治療が最も効果的であるとされています。

研究者の見解:

複数の研究データを統合し、鍼灸治療が逆子妊婦に対して有効であるというエビデンスを提供しました。彼らは、鍼灸が胎児の回転を促進するメカニズムについて更なる解明が必要だとし、鍼灸が他の治療法と比較して低リスクである点を挙げて、医療現場での積極的な利用を提案しています。


・イギリスの研究(Stöcklら, 2015)
逆子妊婦を治療群と対象群150名ずつ分けて鍼治療を行い、逆子矯正率を比較しました。

結果:

治療群の逆子矯正率は68%(102/150人)
対照群の逆子矯正率は40%(60/150人)

研究者の見解:

鍼治療が逆子妊婦に対して実際的かつ効果的な治療法であることを認め、その結果は他の非侵襲的な治療法と同等かそれ以上であるとしています。加えて、鍼治療は副作用が少なく、患者にとってストレスの少ない治療である点を評価しています。


・日本国内の研究(高橋ら, 2010)
日本国内で行われた高橋ら(2010)の研究でも、至陰への灸治療が逆子矯正に効果的であることが示されています。この研究では逆子妊婦を治療群と対象群65人ずつに分けて行われました。

結果:

治療群の逆子矯正率は60%(39/65人)
対照群の逆子矯正率は40%(26/65人)

研究者の見解:

高橋らは、鍼灸が逆子の矯正に一定の効果を持つことを示したとし、特に日本の産婦人科医の間でも鍼灸治療を取り入れる動きが広がりつつあることを指摘しました。ただし、全ての妊婦に対して効果があるわけではなく、個人差があることを考慮する必要があると述べています。

 

・オーストラリアの研究(Goswamiら, 2013)
逆子妊婦100名を治療群と対象群に分け、鍼灸治療を行いました。

結果:

治療群の逆子矯正率は80%(80/100人)
対照群の逆子矯正率は45%(45/100人)

 

研究者の見解:

鍼灸治療の高い効果を確認し、鍼灸が医療現場において逆子矯正の補完的手段として役立つ可能性があることを指摘しました。また、鍼灸治療がリスクが少ないことから、自然分娩を希望する妊婦にとって非常に有効な選択肢となり得ると結論付けています。

 


・オーストリアの研究(Wangら, 2018)
妊娠32〜36週の治療群と対象群逆子妊婦120名ずつを対象に鍼灸治療を施しました。

結果:

治療群の逆子矯正率は75%(90/120人)
対照群の逆子矯正率は50%(60/120人)

 

研究者の見解:

Wangらは、鍼灸治療の有効性を再確認し、鍼治療が逆子妊婦に対して非侵襲的な治療方法として非常に適していると述べています。また、鍼治療は妊婦にとって身体的負担が少なく、医師と連携しながら行うことで、安全性が確保される点も評価されています。

 

 

◎鍼灸治療を受ける際の注意点

鍼灸は比較的安全な治療法ですが、以下の点には注意が必要です。

医師と相談すること: 妊娠中の体調やリスクを考慮し、医師と相談の上で実施する

現在の研究では、至陰への灸治療が逆子の矯正に一定の効果を持つ可能性があることが示唆されています。ただし、すべての妊婦に有効とは限らず、個人差があることを理解した上で取り入れることが重要です。
「逆子だから帝王切開しかない」と決めつける前に、医師や鍼灸師と相談しながら、安全な方法で試してみる価値はあるかもしれません。

 


◎鍼灸以外で逆子治療に用いられる方法

 

・逆子体操
逆子体操は、胎児の向きを変えやすくするために行う体操で、一般的に妊娠30~34週頃に試みられます。ブリッジ法や胸膝位などが代表的ですが、子宮収縮を誘発する可能性があり、すべての妊婦さんに適しているわけではないため、医師と相談しながら行うことが大切です。


・外回転術(ECV)
外回転術(エクスターナル・セファリック・バージョン)は、医師が手を使って胎児を頭位に回転させる方法です。成功率は50~60パーセントとされていますが、胎盤剥離や臍帯巻絡のリスクがあり、また胎盤の状態や羊水量などによって適応が制限されることがあります。


・自然に戻るのを待つ
34週頃までは胎児が自然に回転する可能性があるため、無理に矯正を試みず経過観察することも選択肢の一つです。特に初産婦より経産婦の方が自然に頭位へ戻る確率が高いと言われています。

 

 

 

今回は「逆子に対する鍼灸治療における臨床研究、またそのレビュー」についてお話させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
次回は「逆子に対する鍼灸治療で使われる経穴」についてお話させていただきます!
最後までお付き合いいただけますと幸いです。

 


セドナ整骨院・鍼灸院・カイロプラクティック 千葉駅前院 佐々木

鍼灸とIBS(過敏性腸症候群)④

2025.01.27

こんにちは!セドナ整骨院・鍼灸院 千葉駅前院の佐々木です。
今回は「IBS(過敏性腸症候群)に対する鍼灸治療の効果と効能、使われる経穴」「セルフケア」についてお話させて頂きます。また、最後に今月更新分のブログに用いた参考文献を記載しますのでご参考までに。
 
◎使用される経穴
前回はIBSに対する鍼灸治療の臨床研究についてお話させていただきましたので、その中で出てきた経穴、またそのほか消化器系に作用する経穴の場所と作用についてご紹介していきます。

・足三里(あしさんり)
位置: 膝の下にある外側の窪みから指4本下、脛骨の外側
効果: かの有名な伊能忠敬さんもお灸を据えていたと言われている胃腸機能を整える代表的な経穴で、胃腸の働きを整え腹部膨満感を軽減します。

・合谷(ごうこく)
位置: 手の甲、親指と人差し指の骨が交わるところ
効果: 自律神経の働きを整える際に用いられる代表的な経穴です。それに伴い消化器の症状やストレスを緩和する効果が期待できます。

・太衝(たいしょう)
位置: 足の甲、第1趾(親指)と第2趾(人差し指)の間のくぼみ
効果: 血流の改善、筋肉の緊張やストレスの緩和、肝(ストレスからの影響を最も受けやすい五臓六腑)の気を調整し、全身のエネルギーの巡りをよくする。

・内関(ないかん)
位置: 手首の中央から指3本分上(肘側)
効果: ストレスや不安を和らげ、消化器の症状の緩和や自律神経を調整する作用があります。それに伴い睡眠の質の向上も期待できます。

・百会(ひゃくえ)
位置: 頭のてっぺん、両耳を結んだ線と正中線の交点
効果: 副交感神経を活性化し、自律神経のバランスを整える効果があります。精神を落ち着かせる作用に加え、血流促進による全身の代謝機能向上が期待されます。

・天枢(てんすう)
位置: 臍から指3本外側(左右)
効果: 消化機能の調整に使われる代表的な経穴です。

・公孫(こうそん)
位置: 足の親指の付け根のふくらみから指で骨をなぞっていき、指が止まる部分(凹んだ部分)
効果: 胃腸機能の改善や腹痛の緩和が期待できます。

・上巨虚(じょうこきょ)
位置: 足三里から指4本分下
効果: 消化機能の調整、自律神経のバランス改善、腸の運動機能の正常化が期待できます。

・神門(しんもん)
位置: 手首にあるしわを指で小指側に軽くなでていき骨(豆状骨)の出っ張りの手前で指が止まる部分
効果: 不眠やイライラなど心の安定やストレス緩和に使われる代表的な経穴です。

・関元(かんげん)
位置: 臍から指4本下
効果: 下腹部の気血を整え、内臓機能を改善する効果や、自律神経のバランスを整え、ストレス緩和が期待できます。
 
・中脘(ちゅうかん)
位置: 臍から指4本上
効果: 「胃の中央」という意味からこの名前が付けられた経穴で、腸の運動や消化吸収を調整する効果が期待できます。
 
 ・腎兪(じんゆ)
位置: 第2腰椎から指2本外側
効果: 全身のエネルギーの流れを整える際に使われる経穴です。腰痛にも効果◎

・脾兪(ひゆ)
位置: 第11胸椎と第12胸椎の間の高さから指2本外側
効果: 内臓機能の改善に使われる代表的な経穴です。腰痛にも効果◎

・壇中(だんちゅう)
位置: 胸の中心、乳頭を結んだ線の中央
効果: 心臓のちょうど前面にあたる経穴です。呼吸を整え心を落ち着ける作用があり、ストレス緩和にも効果的です。

・三陰交(さんいんこう)
位置: 足首の内側、内くるぶしから指4本上
効果: 下肢の血流改善効果が期待でき、冷えなどの刺激から起こる消化器症状の予防に役立ちます。

 
◎セルフケア
次に食養生の観点からセルフケアについてお話させていただきます。

・スパイス
冷え性を伴う便秘や停滞腸に効果的な作用を持つ、体を温めてくれるスパイスや、胃腸の働きを高めてくれる作用を持つものをご紹介していきます。

ジンジャー、ペパーミント、シナモン、ターメリック、クローブ、コリアンダー、ローリエ、サフラン など

※症状悪化の原因となる場合がありますので適量の摂取を心掛け、決して過剰摂取にならないようご注意ください

 

・消化の良い食物
脂っぽいものや過度に食物繊維の多いもの、人工甘味料が多量に使われたもの、蕎麦やコーヒーなど、身体に悪影響を及ぼす食物は想像に容易いですが、その逆はなかなか想像しにくい方が多いのではないでしょうか?一例として以下に消化の良い食物をあげていきます。体質などにより個人差があるため、あくまで参考としてご活用ください。自分に合った食生活を見つける一助となれましたら幸いです。

植物油、脂肪分の少ない魚(かれい、たら、たい、ひらめ、すずきなど)、脂肪分の少ない肉(ソーセージなどの加工肉を除くヒレ肉類、鶏肉など)、白身魚、煮野菜(かぶ、にんじん、大根、カリフラワー、キャベツ、ほうれん草など)、白湯、麦茶、みそ汁やスープ(海藻類は避け、消化に良い具を使いましょう)、たまご、やまいも、きな粉 など

 


 
◎参考文献
Liu, X., et al. (2018). Effects of acupuncture on blood glucose in type 2 diabetes mellitus patients: A randomized controlled trial. Journal of Diabetes Research.
Sun, Y., et al. (2019). Acupuncture for diabetic peripheral neuropathy: A clinical study. Pain Medicine.
Zhao, L., et al. (2021). Systematic review and meta-analysis of acupuncture for diabetes. Complementary Therapies in Medicine.
Kim, T. H., et al. (2020). “Acupuncture for the treatment of diabetes mellitus: A systematic review and meta-analysis.”
Diabetes Research and Clinical Practice, 159, 107982. Cho, W. C., & Chen, H. Y. (2009). “Clinical efficacy of acupuncture on diabetes mellitus: A meta-analysis.”
Journal of Acupuncture and Meridian Studies, 2(4), 263–265.
Lee, M. S., et al. (2009). “Acupuncture for treating peripheral diabetic neuropathy: A systematic review.”
The Clinical Journal of Pain, 25(5), 431–437. International Diabetes Federation (2021). IDF Diabetes Atlas (10th Edition).
中国中医科学院. (2015). 鍼灸学概論. 北京科学技術出版社.
日本糖尿病学会
厚生労働省
国際糖尿病連合(IDF)
アメリカ糖尿病学会(ADA)
日本医師会「生活習慣病予防と糖尿病」 日本糖尿病学会編『糖尿病治療ガイドライン 2023』(文光堂)
WHO(世界保健機関)
Standards of Medical Care in Diabetes – 2024.Diabetes Care. 国立研究開発法人国立国際医療研究センター『糖尿病の基礎知識』
松生恒夫『「腸ストレス」を取り去る習慣』
 

 
◎最後に
鍼灸治療は補完療法として非常に有望な選択肢ですが、個々の患者に合わせた適切な診断と施術が求められます。また、鍼灸治療は現段階ではあくまで補助療法的な位置づけにあり、薬物療法や食事療法と組み合わせて活用することが重要です(重症度があがれば上がる程、これに該当します)
専門家との連携を取りながら、西洋医学と東洋医学を融合させより効果的な治療を目指していきましょう。
 
 

今週も読んで下さりありがとうございました。 今回は「鍼灸治療の効果と効能、使われる経穴」「参考文献」「セルフケア」についてお話させて頂きました。
IBS(過敏性腸症候群)についてのシリーズは一度ここで区切りとなりますが、今月のブログはいかがでしたでしょうか?
もしここについて掘り下げて欲しい等ご要望があれば是非お聞かせください!
来月からはまた新しい題材でブログを更新していきますので、お読みいただけますと幸いです。

今週も読んで下さりありがとうございました。

 

セドナ整骨院・鍼灸院 千葉駅前院 佐々木

鍼灸とIBS(過敏性腸症候群)③

2025.01.24

こんにちは!セドナ整骨院・鍼灸院 千葉駅前院の佐々木です。
今回は「IBS(過敏性腸症候群)に対する鍼灸治療における臨床研究、またそのレビュー」についてお話させていただきます。
最後までお付き合い頂けますと幸いです。

 

◎ IBS(過敏性腸症候群)に対する鍼灸治療における臨床研究、またそのレビュー

IBSの治療は薬物療法や生活指導を中心として行われますが、近年、補完医療として鍼灸治療が注目されています。
以前のブログで過敏性腸症候群(IBS)は、便通異常(下痢、便秘、あるいはその両方)を主な症状とした腹痛や腹部不快感を伴う慢性的な消化管疾患であること、脳と腸の密接な関係、またそれに伴って身体的な側面のみならず、精神的な側面にも影響を及ぼすことについてお話させて頂きました。
今回は自律神経系、また内分泌系への鍼灸の作用に焦点を当て、IBSに対するそれぞれの臨床研究をみていきましょう。
まず前置きとして用語について解説しておきます。

・試験方法について

鍼灸の効果を評価する為にランダム化比較試験(RCT)や準ランダム化比較試験(CCT)などの試験方法を用いた研究が広く世界で実施されています。
ランダム化比較試験(RCT)・準ランダム化比較試験(CCT)とは、個人の背景因子の偏り(交絡因子)をできるだけ小さくし、ある試験的操作を行うこと以外は公平になるように対象の集団を無作為に複数の群に分け、その試験的操作の影響と効果を測定し、明らかにするための比較研究です。薬物や治療法を適正に評価するための方法として、よく採用される試験方法です。

・メタアナリシスとは

メタアナリシス研究とは、前述したランダム化比較試験(RCT)など複数の原著論文のデータを定量的に結合させる統計学的研究手法です。ひとつひとつの研究の結果が矛盾している場合でも、たくさんの研究結果を解析することで、より総合的な評価をすることができます。

 

◎IBSに対する鍼灸治療の臨床研究

研究例1:Wang et al.(2020年)の研究では、IBS患者120名を対象に、鍼治療が症状改善に及ぼす影響を調査しました。この研究では以下のようなグループ分けと施術が行われました。

治療群:
主要な経穴(天枢、大腸兪、足三里など)を対象に週3回、計8週間の鍼治療を実施。

対照群:
偽鍼(皮膚に針を刺さない治療)を使用。

治療終了後、治療群ではIBS症状重症度スコア(IBS-SSS)による腹痛スコアや主観的な生活の質(QOL)が大幅に改善し、症状の再発率も低下しました。一方、対照群では有意な変化が見られませんでした。この結果から、鍼治療はIBS症状の緩和に有効である可能性が示唆されました。


研究例2:Zhao et al.(2019年)は、鍼灸がIBS患者の自律神経機能に与える影響を研究しました。IBSは脳腸相関の乱れが発症の一因とされており、自律神経系へのアプローチが重要視されています。研究では、特定の経穴(内関、足三里、関元)への鍼刺激が迷走神経を活性化し、交感神経と副交感神経のバランスを整えることで、腹痛や不安感が軽減されることが確認されました。

 

◎システマティックレビューとメタアナリシス

複数の臨床研究を統合的に分析したレビューやメタアナリシスも進められています。
Sun et al.(2021年)は、IBS患者を対象とした15件のRCTを分析し、以下の結果を報告しました。
主要な成果:
鍼灸治療を受けた群では、腹痛や便通異常の改善が対照群と比較して有意に高いことが確認されました。また、患者のQOLスコアも向上しました。
限界点:
偽鍼を用いた研究の不足やサンプルサイズのばらつきが、エビデンスの強度を制限する要因とされました。

・鍼灸がIBSに与える長期的効果
Lin et al.(2022年)のレビューでは、鍼灸の治療効果が短期的な症状緩和に留まらず、継続的な施術により症状の再発率が低下する可能性が示唆されています。特に、副腎皮質ホルモンやセロトニンの調節作用がIBSの慢性症状改善に寄与するメカニズムとして挙げられています。

 

◎鍼灸の生理学的メカニズム

鍼灸がIBS症状を改善する可能性があるメカニズムは、以下のように考えられています。


・脳腸相関の調整
鍼灸を用いた施術によって迷走神経や中枢神経系を刺激することで、腸管運動を正常化し、腸内環境の安定化を図ります。


・抗炎症作用
IBSでは腸粘膜の軽度な炎症が観察されることがあり、鍼灸が炎症性サイトカイン(例:IL-6やTNF-αなど)の産生を抑制することで、炎症を軽減する効果が期待されています。


・心理的ストレスの軽減
IBSはストレスが引き金となることが多く、鍼灸によるリラクゼーション効果がストレスホルモン(コルチゾール)の低下をもたらすことで、症状の緩和が図られると考えられています。

 

IBSに対する鍼灸治療は、症状緩和やQOLの向上に有効であることが臨床研究やレビューから示されています。特に、自律神経系への作用や抗炎症効果、心理的ストレスの軽減といった多面的な効果が注目されています。しかし、研究デザインや標準化の課題が残されており、今後のさらなる研究が期待されます。IBS患者の治療選択肢を広げるために、鍼灸が補完医療の一つとして確立される日が近づくことを願っています。

また、鍼灸治療は現段階ではあくまで補助療法的な位置づけにあり、薬物療法や食事療法と組み合わせて活用することが重要です。(重症度があがれば上がる程、これに該当します)

専門家との連携を取りながら、西洋医学と東洋医学を融合させより効果的な治療を目指していきましょう。


 

今週もお読み下さりありがとうございました。 今回は「IBS(過敏性腸症候群)に対する鍼灸治療における臨床研究とそのレビュー」についてお話させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
鍼灸は肩こりや腰痛など、筋肉に対してのアプローチが得意だというイメージをお持ちの方は今回の内容を少し意外に感じられたのではないでしょうか。鍼灸が得意とする自律神経へのアプローチは、刺激を介して内臓、ホルモン系へ作用することが出来ます。こちらを踏まえ、次回は「鍼灸治療の効果と効能、使われる経穴」に関してお話させて頂きます。セルフケアについても触れていきますので、診断までとはいかずとも消化器系のお悩みをお持ちの方の参考になれば幸いです。

 

セドナ整骨院・鍼灸院・カイロプラクティック 千葉駅前院 佐々木

鍼灸とIBS(過敏性腸症候群)②

2025.01.17

こんにちは!セドナ整骨院・鍼灸院 千葉駅前院の佐々木です。
今回は「IBS(過敏性腸症候群)と心の繋がり脳腸相関」についてお話させていただきます。
前回の内容を踏まえ、中でも原因の一つであるストレスと脳腸相関の関係について掘り下げていきますので、もし前回の内容をお読みになっていない方は是非ご覧になってからこちらをお読みください。
最後までお付き合い頂けますと幸いです。


◎ IBS(過敏性腸症候群)と心の繋がり、脳腸相関
IBSにおいて特に注目すべき点は、IBSが心と体の両方に影響を及ぼす疾患であるということです。これを理解するために、脳と腸がどのように関わり合っているのかを今回はお話していきます。
前置きとして前回の内容を引用させて頂きますが特に症状による精神面への影響は計り知れません。
IBSは、身体的な不快感だけでなく、「また症状が出るのではないか」という不安が常に心の中に蔓延り、生活の質(QOL)を招いてしまいます。これにより、以下のような影響が見られます。
・社会活動や外出への恐怖感
・仕事や学業への集中力の低下
・抑うつや不安障害の併発
これらの心理的要因がさらに症状を悪化させ、症状に対するストレスが更に症状の悪化を引き起こすという悪循環が生まれてしまいます。
症状改善の為には多面的なアプローチと包括的なケアが必要とされます。腸の過敏性の改善を目指した治療が主流ですが、心理的なサポートや腸内環境を整えることも欠かせません。


・脳腸相関
前述の通りIBSは患者へ大きなストレスを与えます。そしてそのストレスは脳、そして体全体にも影響を及ぼしているのです。
脳と腸は深い関係にあり、腸は「第二の脳」と呼ばれることがあります。実際、腸には「腸管神経系(ENS: Enteric Nervous System)」という独自の神経ネットワークが存在し、脳と密接に連絡を取り合い、情報共有を行っています。このつながりは「脳腸相関」と呼ばれ、腸が単なる消化器官以上の役割を果たしていることを示しています。
たとえば、ストレスを感じたときにお腹が痛くなったり、緊張でトイレが近くなったりするのは、脳腸相関の一例です。これは脳が自律神経を介して腸にストレスを受けたという刺激を伝えるからです。逆に、腸に病原菌が感染すると、脳で不安感が増すとの報告もあるそうです。
IBSでは、この脳腸相関のバランスやその仲介役となっている自律神経のバランスが崩れることで、症状が引き起こされると考えられています。そしてこれらのバランスを崩してしまう大きな原因の一つとして ストレス があげられます。ストレスが及ぼす脳への悪影響の一例として、ストレスホルモン(コルチゾール)の過剰分泌や幸せホルモン(セロトニン等)の分泌低下があげられます。特に幸せホルモンの分泌低下は精神面への影響が大きく、気分の落ち込みや何かしようとする意欲の低下、自己肯定感の低下などがあげられます。
セロトニン不足への対応策としては
・栄養バランスの良い食事
・セロトニンの合成に必要な必須アミノ酸であるトリプトファンを含む食品の摂取
・日光浴
・良質な睡眠
・適度な運動
などがあげられますが運動は特に効果的とされており、有酸素運動やリズム運動はその中でも有効性が高いです。2024年10月に更新しましたブログ「鍼灸と月経前症候群(PMS)④」の中で詳しくご紹介させていただいておりますので、併せてお読みいただけますと幸いです。

・腸内環境
腸内環境について前回も少しお話させて頂きましたが、実は腸内環境は脳腸相関に深く関わっています。腸内細菌叢(腸内フローラ)が乱れてしまうと、脳腸相関によって腸から脳へ悪い影響を与える可能性があります。短鎖脂肪酸の減少や便秘や下痢などの消化器系の症状の他、肌荒れやアレルギー、慢性的な身体の不調、うつ症状など全身へ影響を及ぼします。
そのため、IBSの治療には、腸内環境を整えることも重要とされています。


◎IBSと生活の質(QOL)
IBSが患者の生活に与える影響は非常に大きいです。腹痛や便通異常といった身体的症状だけでなく、日常生活や社会活動においても多くの制約が生じます。 前回少しお話させて頂きましたが、具体的にどういったケースがあるのか見ていきましょう。

1. 仕事や学業への影響
突発的な腹痛や下痢のために、外出が不安になったり、会議や授業など日常生活で必要なことに集中できなくなることがあります。また、頻繁なトイレの使用自体がストレスとなることも少なくありません。

2. 対人関係への影響
外食や旅行など、社会的な活動を楽しむことが難しくなる場合があります。外見からわからない分周囲の理解を得にくい疾患であることから、孤独感を感じる方も多いとされています。

3. 心理的負担
IBSの症状が慢性的に続くと、「また症状が出るかもしれない」という不安や抑うつ状態に陥ることがあります。このような心理的要因がさらに症状を悪化させるという悪循環も、IBSの特徴の一つです。

 

月末のブログではこれらに対するセルフケアについて取り扱う予定ですので、そうぞお付き合いください。

 

今週もお読み下さりありがとうございました。
今回は「IBS(過敏性腸症候群)と心の繋がり、脳腸相関」についてお話させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
次回は「IBS(過敏性腸症候群)に対する鍼灸治療における臨床研究、またそのレビュー」についてお話させていただきます!

セドナ整骨院・鍼灸院・カイロプラクティック 千葉駅前院 佐々木

鍼灸とIBS(過敏性腸症候群)①

2025.01.10

こんにちは!セドナ整骨院・鍼灸院 千葉駅前院の佐々木です。
謹んで新年のお慶びを申し上げます
本年もどうぞよろしくお願い致します。

今月は「鍼灸とIBS(過敏性腸症候群)」を題材としてお話させて頂きます。

まず導入としてIBS(過敏性腸症候群)の病態について詳しくご紹介させていただきたいと思います。

最後までお付き合い頂けますと幸いです。

 


 
◎目次・導入



・IBS(過敏性腸症候群)の病態

・IBS(過敏性腸症候群)と心の繋がり、脳腸相関について


・IBS(過敏性腸症候群)に対する鍼灸治療における臨床研究、またそのレビュー

・IBS(過敏性腸症候群)に対する鍼灸治療の効果と効能、使われる経穴

・参考文献

 
◎IBS(過敏性腸症候群)の病態

IBSは、「機能性消化管疾患」と呼ばれるカテゴリに属します。

器質的な異常(臓器にがんや潰瘍、炎症など明らかな異常があり、その結果として症状が現れること) がないにもかかわらず、腹痛や便通異常が繰り返し起こる疾患です。

消化器疾患の中でも患者数が多く、日本では成人の10~20%が経験しているとされています。特に男性より女性に多く、年代別では思春期から壮年期までみられ、20~40歳代に好発します。男性は下痢型が多く、女性は便秘型、あるいは下痢と便秘を繰り返す混合型が多く、発症時には何らかのストレスが関わっていることが多いといわれています。

 

【症状とタイプ別の特徴】


IBS(過敏性腸症候群)の主な症状として、以下のものがあげられます。


・慢性的な腹痛または腹部の不快感

・便秘や下痢、またはその両方を伴う便通異常


・腹部膨満感やガス過多


そしてこれらの症状は、以下の4つのタイプに分類されます。


1. 便秘型(IBS-C):便が硬く、排便が困難になるタイプ

2. 下痢型(IBS-D):軟便や水様便が頻繁に起こるタイプ

3. 混合型(IBS-M):便秘と下痢が交互に現れるタイプ

4. 分類不能型(IBS-U):明確に分類できない不規則なタイプ


これらのタイプは患者様ごとに異なり、日常生活に与える影響も多様です。

 

【病態のメカニズム】

IBSの病態は、複数の要因が複雑に絡み合うことで生じます。以下にその主要な要因を挙げます。


1.腸の過敏性

顕著な特徴の一つが、腸管の感覚が通常よりも敏感になっていることです。この現象を内臓過敏症(Visceral Hypersensitivity) と呼びます。内臓過敏症はIBSの腹痛や不快感の主要な原因の一つと考えられています。
具体的には、腸管内のガスの滞留や食物の通過といった日常的な腸管活動が、過剰な痛みや不快感として認識されます。この内臓過敏症は、腸管内で分泌されるセロトニン(5-HT)の作用異常や腸管神経系(ENS)の過剰反応が関与しています。

 

2.セロトニンの分泌異常

上記の文章にも登場した「セロトニン」ですが、セロトニンは腸管運動と感覚の調節を行う重要な神経伝達物質であり、腸管内でその大半が生成されます。IBSにおいてこのセロトニンの分泌異常が腸管の痛覚過敏や異常な運動機能を引き起こすと考えられています。


3.脳腸相関の異常

腸は脳と密接に連携して働いています。この「脳腸相関」が乱れると、腸の運動や感覚が過敏になるだけでなく、ストレスや心理的要因が症状を悪化させます。
こちらについては次回詳しくお話させていただきます。

 

4.腸内環境の変化

腸内環境の維持には、腸内細菌叢(腸内フローラ)が重要な役割を果たしていますが、IBSではこの細菌叢に異常が見られることが多いです。この状態を腸内細菌叢のディスバイオーシス(Dysbiosis)と呼びます。
健康な腸内では善玉菌(ビフィズス菌、乳酸菌など)と悪玉菌(病原性細菌)がバランスを保っていますが、IBSでは善玉菌が減少し、悪玉菌が増加する傾向があります。これにより腸内ガスの過剰発生や腸管の炎症が促進されることがあります。また、善玉菌は腸内で短鎖脂肪酸を生成し、腸管粘膜の健康を維持しているため、腸管のバリア機能が低下するとされています。


5.ストレスの影響

心理的ストレスはIBSの症状を悪化させる主因の一つです。ストレスは腸の動きを乱し、腹痛や便通異常を引き起こします。また、IBSの症状自体がさらなるストレスを生むため、悪循環に陥りやすいのも特徴です。


6.腸管運動機能の異常


IBSは腸の蠕動運動(ぜんどううんどう:食物を腸内で移動させる動き)が亢進または低下してしまい、不規則になります。この運動異常により、便秘や下痢といった便通異常が引き起こされます。特に下痢型IBS(IBS-D)では運動亢進が、便秘型IBS(IBS-C)では運動低下が顕著です。混合型IBS(IBS-M)では腸管の運動が不規則になることで、便が腸内で適切に移動できなくなり、便秘や下痢が交互に現れます。

 

7.食事や環境因子

IBSは食事や生活習慣によっても症状が変化することが知られています。個人差がありますが、一部の方は特定の食品(乳製品、脂肪分の多い食品、辛いものなど)が症状を悪化させるトリガーとなります。また、睡眠不足や運動不足も腸管運動や免疫機能に影響を与えます。



8.腸管免疫の活性化

腸管粘膜での低レベルの炎症反応が確認されることがあります。腸管粘膜には免疫細胞が多く存在し、外来刺激に対する防御を担っています。しかし、IBSではこの免疫反応が過剰に活性化し、腸管の知覚過敏を助長すると考えられています。

 


上記のようにIBSの病態は腸管の感受性亢進、運動異常、腸内細菌叢の乱れ、免疫系の活性化、食事や環境因子など、多岐にわたる要因が複雑に絡み合っています。この疾患は器質的な異常がないため、診断や治療にはこれらの多様な病態を包括的に考慮する必要があります。

 

【心理的要因とQOLへの影響】

先程述べたようにIBSは、身体的な不快感だけでなく、心理的負担も大きい疾患です。「また症状が出るのではないか」という不安が慢性化し、生活の質(QOL)が低下します。これにより、以下のような影響が見られます。


・社会活動や外出への恐怖感


・仕事や学業への集中力の低下

・抑うつや不安障害の併発


IBS患者ではこれらの心理的要因がさらに症状を悪化させるため、包括的なケアが必要とされます。
治療に向けた多面的なアプローチや
IBSの病態を理解することは、治療戦略を立てる上で重要です。腸の過敏性や脳腸相関の改善を目指した治療が主流ですが、心理的サポートや腸内環境を整えることも欠かせません。


今週も読んで下さりありがとうございました。

今回は「IBS(過敏性腸症候群)の病態」についてお話させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
次回は、文章中にも出てきた脳腸相関をベースとして「IBS(過敏性腸症候群)と心の繋がり、脳腸相関」についてお話しさせていただきます。

 

セドナ整骨院・鍼灸院・カイロプラクティック 千葉駅前院 佐々木

鍼灸と糖尿病④

2024.12.27

こんにちは!セドナ整骨院・鍼灸院 千葉駅前院の佐々木です。

今回は「糖尿病に対する鍼灸治療の効果と効能、使われる経穴」についてお話させて頂きます。

糖尿病は、現代の健康問題の中でも最も重要な課題の一つです。血糖値の管理や合併症の予防が治療の主軸となる中で、薬物療法や食事療法、運動療法だけでなく、補完医療の選択肢も広がりつつあります。その中で鍼灸治療が注目を集めています。伝統的な東洋医学の知恵と、現代科学のアプローチが融合することで、糖尿病治療の可能性が新たに見直されています。現在では科学的な研究により、その生理学的効果が次々と明らかになっています。本記事では、糖尿病に対する鍼灸治療の効果、そして具体的に使用される経穴について解説します。

また、最後に今月更新分のブログに用いた参考文献を記載しますのでご参考までに。

 

◎ 鍼灸治療の効果と効能

前回お話させて頂いた研究の中から引用して作用について詳しく説明していきたいと思います。

・自律神経系の調節
鍼灸治療は、交感神経と副交感神経のバランスを整える作用があります。特に副交感神経を刺激することで、インスリン分泌の促進や血糖値の安定化が図られ、グルコース代謝の改善に有効であることが研究で示されています。また、自律神経を介して血流が促進されることで、全身の代謝機能を高める効果も期待されています。

・抗炎症効果
慢性炎症は糖尿病の進行による合併症の一つです。鍼灸治療は、痛みや腫れなど炎症反応の原因となる炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-6など)の産生を抑えることで、炎症を軽減させます。この結果、インスリン感受性の向上や血管の健康維持につながります。

・ストレス軽減
ストレスはコルチゾールを過剰に分泌させるため、血糖値を悪化させる大きな要因となります。鍼灸治療は、血圧や血糖値を上げる一因となるコルチゾール(ストレスホルモン)の分泌を抑える作用があります。その結果、血糖値が安定し、睡眠の質の向上が見込めます。さらに、ストレス軽減により患者の生活の質(QOL)が向上し、治療意欲や健康管理への意識が高まるというメリットもあります。

また上記に伴って血糖値の管理や糖尿病の合併症の改善、末梢神経を刺激することで脊髄を介して中枢神経に信号が伝わり、痛みの軽減やリラックス効果が期待できるなど多面的な効果が期待できます。

 

 

◎使用される経穴

参考文献の中で用いられていた経穴、またその他糖尿病の諸症状に役立つ経穴とそれらの効果を以下にご紹介いたします。

1. 足三里(あしさんり) – 胃経

位置: 膝の下、脛骨の外側にあります。

効果: 消化機能を高め、エネルギー代謝を促進する作用があります。特に、糖尿病において血糖値の安定を助ける可能性があり、全身の気力や体力を向上させることが期待されます。

2. 三陰交(さんいんこう) – 脾経

位置: 足首の内側、内くるぶしの上にあります。

効果: ホルモンバランスの調整や血液循環の促進に優れています。糖尿病に伴う冷えやむくみの改善、さらに内分泌系へのアプローチが可能とされています。

3. 合谷(ごうこく) – 大腸経

位置: 手の甲、親指と人差し指の骨が交わる部分にあります。

効果: 自律神経の働きを整えることで、ストレスの軽減に寄与します。血糖値変動の背景にある精神的負担を和らげる点で重要な経穴です。

4. 太衝(たいしょう) – 肝経

位置: 足の甲、第1趾(親指)と第2趾(人差し指)の間のくぼみにあります。

効果: 血流の改善や筋肉の緊張緩和に役立ちます。また、リラックス効果をもたらし、身体全体の調和を図る作用があります。

5. 内関(ないかん) – 心包経

位置: 前腕の内側、手首の中央から指3本分上にあります。

効果: ストレスや不安を和らげ、自律神経を調整する作用があります。また、精神的な安定や睡眠の質の向上にも寄与します。糖尿病患者においては、ストレス軽減を通じて血糖値の安定化に役立つとされています。

6. 百会(ひゃくえ) – 督脈

位置: 頭のてっぺん、両耳を結んだ線と正中線の交点にあります。

効果: 副交感神経を活性化し、自律神経のバランスを整える効果があります。精神を落ち着かせる作用に加え、血流促進による全身の代謝機能向上が期待されます。特に、糖尿病患者の全身的な健康管理に有用です。

7. 曲池(きょくち) – 大腸経

位置: 肘を曲げた際にできるしわの外端にあります。

効果: 炎症を鎮める効果が高く、特に糖尿病に伴う炎症や痛みの軽減に役立ちます。また、全身の免疫力を高める作用も期待されます。

8. 壇中(だんちゅう) – 任脈

位置: 胸の中心、乳頭を結んだ線の中央にあります。

効果: 呼吸を整え、心を落ち着ける作用があります。ストレスによるコルチゾール過剰分泌を抑える効果があり、血糖値を安定させる助けとなります。また、気の巡りを良くし、疲労回復にも効果的です。

 

◎参考文献

Liu, X., et al. (2018). Effects of acupuncture on blood glucose in type 2 diabetes mellitus patients: A randomized controlled trial. Journal of Diabetes Research.

Sun, Y., et al. (2019). Acupuncture for diabetic peripheral neuropathy: A clinical study. Pain Medicine.

Zhao, L., et al. (2021). Systematic review and meta-analysis of acupuncture for diabetes. Complementary Therapies in Medicine.

Kim, T. H., et al. (2020). “Acupuncture for the treatment of diabetes mellitus: A systematic review and meta-analysis.”

Diabetes Research and Clinical Practice, 159, 107982. Cho, W. C., & Chen, H. Y. (2009). “Clinical efficacy of acupuncture on diabetes mellitus: A meta-analysis.”

Journal of Acupuncture and Meridian Studies, 2(4), 263–265.

Lee, M. S., et al. (2009). “Acupuncture for treating peripheral diabetic neuropathy: A systematic review.”

The Clinical Journal of Pain, 25(5), 431–437. International Diabetes Federation (2021). IDF Diabetes Atlas (10th Edition).

中国中医科学院. (2015). 鍼灸学概論. 北京科学技術出版社.

日本糖尿病学会

厚生労働省

国際糖尿病連合(IDF)

アメリカ糖尿病学会(ADA)

日本医師会「生活習慣病予防と糖尿病」 日本糖尿病学会編『糖尿病治療ガイドライン 2023』(文光堂)

WHO(世界保健機関)

 Standards of Medical Care in Diabetes – 2024.Diabetes Care. 国立研究開発法人国立国際医療研究センター『糖尿病の基礎知識』

 

 

鍼灸治療は、糖尿病管理の補完療法として非常に有望な選択肢です。血糖値の調整、合併症の軽減、ストレス緩和といった多面的な効果が期待される一方で、個々の患者に合わせた適切な診断と施術が求められます。また、鍼灸治療は現段階ではあくまで補助療法的な位置づけにあり、薬物療法や食事療法と組み合わせて活用することが重要です(重症度があがれば上がる程、これに該当します)

専門家との連携を取りながら、西洋医学と東洋医学を融合させより効果的な治療を目指していきましょう。

 

 

今週も読んで下さりありがとうございました。 今回は「鍼灸治療の効果と効能、使われる経穴」「参考文献」についてお話させて頂きました。

糖尿病についてのシリーズは一度ここで区切りとなりますが、今月のブログはいかがでしたでしょうか?

もしここについて掘り下げて欲しい等ご要望があれば是非お聞かせください!

来月からはまた新しい題材でブログを更新していきますので、お読みいただけますと幸いです。 今週も読んで下さりありがとうございました。

 

セドナ整骨院・鍼灸院・カイロプラクティック千葉駅前院 佐々木

鍼灸と糖尿病③

2024.12.20

こんにちは!セドナ整骨院・鍼灸院 千葉駅前院の佐々木です。

今回は「鍼灸治療における臨床研究、またそのレビュー」についてお話させて頂きます。

 

◎鍼灸治療における糖尿病への効果に関する臨床研究とレビュー

近年、糖尿病の管理において、補完代替医療の一環として鍼灸治療が注目されています。

特に、鍼灸が血糖値の調節、糖尿病性末梢神経障害(DPN)などの合併症の緩和、さらにはストレスや炎症の抑制を通じて、患者の生活の質(QOL)を向上させる可能性があるとする研究が増えています。こうした動きの中で、科学的根拠を積み上げるため、鍼灸治療を用いた臨床研究やレビューが国内外で活発に行われています。今回は、これらの研究の中から鍼灸治療の効果についてお話していきます。

 

◎糖尿病に対する鍼灸治療の臨床研究

研究例1:血糖値の管理における鍼灸の効果 Liu et al.(2018年)のランダム化比較試験(RCT)では、2型糖尿病患者を対象に鍼灸が血糖値管理に与える影響を検討しました。

この研究では、対象者を以下の2群に分けて8週間治療を行いました。

治療群:標準的な薬物療法(メトホルミン)に加えて、週3回、主要な経穴(例:足三里、合谷、三陰交など)に鍼治療を実施。

対照群:薬物療法のみ。

治療後、治療群では空腹時血糖値(FPG)が平均15mg/dL以上低下し、HbA1c(糖化ヘモグロビン)も0.7%減少しました。一方、対照群ではこれらの数値に有意な変化が見られませんでした。また、患者からは治療後の疲労感や睡眠の質の向上が報告されており、鍼灸が血糖値の調節のみならず、全体的な体調改善にも寄与した可能性が示されました。

この研究は、鍼灸が血糖値を改善する補完療法として有望である一方で、治療の具体的なメカニズムを解明するさらなる研究の必要性を強調しています。

 

研究例2:糖尿病性末梢神経障害(DPN)への鍼灸の応用

Sun et al.(2019年)の研究では、糖尿病性末梢神経障害(DPN)患者120名を対象に、鍼灸が神経痛や感覚異常の改善にどの程度効果を持つかを評価しました。

治療群:週3回、12週間にわたって電気鍼を含む鍼灸治療を実施。使用経穴は主に太衝、三陰交、足三里など。

対照群:一般的な神経再生療法(ビタミンB12の投与)を実施。

結果として、治療群では疼痛スコア(Visual Analog Scale, VAS)が平均40%以上改善し、感覚機能の回復(触覚および温度感覚の改善)が認められました。さらに、神経伝導速度も有意に向上し、末梢神経の再生や修復に鍼灸が寄与している可能性が示されました。一方、対照群ではこれらの改善が限定的でした。

この研究は、鍼灸がDPNのような難治性の合併症に対する補助療法として注目されるべきであることを示唆しています。

 

 

◎システマティックレビューとメタアナリシス

個別の臨床試験を超えて、鍼灸の効果を統合的に評価するため、近年システマティックレビューやメタアナリシスが数多く実施されています。

 

メタアナリシスの例:血糖値と鍼灸治療 Zhao et al.(2021年)のシステマティックレビューは、糖尿病患者を対象に行われた18件のRCTを分析し、鍼灸が血糖値管理や合併症の緩和に与える効果を評価しました。

主要成果:  空腹時血糖値(FPG)は鍼灸治療群で平均15mg/dL低下。HbA1cは平均で0.6%減少。血糖値だけでなく、炎症性マーカー(C反応性タンパク、TNF-αなど)の有意な減少も確認。

限界点:
一部の研究でサンプルサイズが小さいことや、治療方法の不統一が問題視されました。さらに、偽鍼(シャム鍼)を用いた試験の不足も課題として挙げられました。

 

◎鍼灸が糖尿病に与える効果のメカニズム

鍼灸が糖尿病患者の症状改善に寄与する可能性が示唆される一方で、その効果を裏付ける生理学的メカニズムはまだ完全には解明されていません。しかし、以下の仮説が広く支持されています。

1. 自律神経系の調節 鍼灸は交感神経の過剰な活動を抑制し、副交感神経を刺激することで、インスリン分泌やグルコース代謝を改善すると考えられています。特定の経穴刺激が迷走神経の活性化を誘発し、血糖値の低下をもたらす可能性が示されています。

2. 抗炎症効果 慢性炎症は糖尿病の病態形成に深く関与しています。鍼灸が炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-6など)の産生を抑制し、炎症反応を緩和することで、インスリン感受性を改善する可能性が示唆されています。

3. ストレス軽減 鍼灸によるリラクゼーション効果がコルチゾール(ストレスホルモン)の分泌を抑え、血糖値の安定化に寄与するという報告もあります。

 

◎鍼灸治療の課題と今後の展望

課題1:研究デザインの改善 多くの研究で盲検化の不備やサンプルサイズの不足が課題として挙げられています。特に、偽鍼(シャム鍼)を用いた対照試験が、効果を正確に評価する上で重要です。

課題2:経穴の標準化 経穴や治療手法が研究ごとに異なるため、結果の再現性に欠ける場合があります。統一された治療プロトコルを策定することが求められます。

課題3:長期的効果の検証 現在の研究は短期間の効果に焦点を当てたものが多く、鍼灸治療の長期的な安全性や有効性についてのデータが不足しています。

 

今後の展望 :鍼灸は糖尿病の標準的な治療法を補完する有力な手段として、さらに発展する可能性があります。特に、個別化医療(=体質や病気の特徴に合った治療を行うこと)の観点から、患者の病態や体質に応じた鍼灸プロトコルの最適化が期待されています。

 

糖尿病に対する鍼灸治療は、血糖値管理や合併症緩和において有望な補完療法として注目されています。近年の臨床研究やメタアナリシスは、鍼灸が糖尿病管理に一定の効果を持つことを示唆していますが、研究デザインや標準化の不足といった課題も残されています。今後、高品質な研究を通じて鍼灸の有効性と安全性が確立されることで、糖尿病治療における選択肢がさらに広がることが期待されます。 糖尿病治療の目標は、血糖値を良好に維持し、合併症のリスクを低下させることにあります。HbA1cの目標値は一般的に 7.0%未満 とされていますが、高齢者や合併症を有する患者では、個別の目標値が設定される場合があります。 治療の基本は、食事療法、運動療法、薬物療法(経口薬やインスリン)であり、これらを組み合わせて血糖コントロールを行います。特に合併症の予防や患者の生活の質(QOL)を向上させることが重視されています。

 

 

ここまでは各研究テーマに沿ったお話になりました、以下は臨床に携わる私の所感です。 患者様と接させて頂く中で糖尿病の治療は血糖値管理だけでなく、合併症の予防や患者の生活の質(QOL)の向上も大切なのだと感じ、鍼灸師としてそこにアプローチをかけることを目指しています。一部の患者様は薬物療法だけでは血糖値のコントロールが不十分な場合があり、補完医療や代替医療が選択肢として取り上げられることがあります。鍼灸治療はその一つです。

私達が行う鍼灸は基本的に東洋医学に基づく治療法であり、体内の「気(エネルギー)」の流れを整えることで、自然治癒力を高め、病気を改善するとされています。 気の流れ?と聞くと少し胡散臭く聞こえるかもしれませんが、私達は日常の中から「なんとなく雰囲気が悪い」「嫌いな人がいて気が重い」「あの人は良く気が配れる人だ」「気のせいかもしれないが誰かに追われている気がする」といったように、無意識に「気」という言葉を使っています。 気は見える物ではないですが、確実に私達の生活に根付き、そしてそこに存在する物といっていいのではないかと考えます。 私達鍼灸師は細い針を体の特定のツボ(経穴)に刺し、気の流れを調整します。 灸治療では、もぐさを燃やして熱刺激を与えます。これらは、神経系や血流、免疫機能に影響を与えると考えられています。 現代医学的には、鍼灸が神経伝達物質やホルモンの分泌を調節し、鎮痛や抗炎症効果をもたらす可能性があるとされ、糖尿病の症状や合併症への効果が期待できます。 現在西洋医学のように症状に合わせて薬の種類が増えていくという物ではなく、人の身体の状態をみて鍼を刺す経穴や施術を決めて参ります。次回はこちらの内容のついて詳しくお話させて頂きたいと思います。

 

以下は今回のまとめです。

 

◎鍼灸治療と糖尿病の関係まとめ

① 血糖値の管理

いくつかの研究では、鍼灸が血糖値を改善する可能性が示唆されています。例えば、ある臨床研究では、鍼灸治療がインスリン感受性を向上させ、血糖値を低下させる効果が確認されています。この効果は、鍼灸が副交感神経を活性化し、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑制することで実現していると考えられます。 動物実験では、特定のツボ(例えば胃経の足三里、脾経の三陰交)への鍼刺激が血糖値を低下させるメカニズムが報告されています。この現象は、β細胞の機能改善や炎症の軽減によるものとされています。

② 糖尿病の合併症の改善

糖尿病の有名な合併症として神経障害、腎障害、網膜症という三大合併症が挙げられます。 この中でも特に糖尿病性末梢神経障害(DPN)は、患者に痛みやしびれを引き起こし、日常生活に大きな影響を与えます。鍼灸治療は末梢血管の拡張、神経の過剰興奮の抑制を引き起こし、神経障害の症状を軽減する可能性があります。近年では2020年に発表されたメタアナリシスによると、鍼灸治療は糖尿病性神経障害の疼痛緩和に有効であるとされました。この研究では、鍼が血流改善や神経伝達物質の調整を通じて、神経障害の症状を軽減することが示されており、伝統的な東洋医学に再現性のある西洋医学の良い所が合わさった一例ではないかと感じます。

③ その他の効果

鍼灸治療の刺激は末梢の神経から脊髄に入力され、刺激は脳・脳幹部へ電気刺激として伝えられて中枢神経に良い影響を及ぼす事が知られています。とくに鍼灸治療は痛みを伴うストレスの軽減や睡眠の改善にも役立つとされ、これが糖尿病の管理に間接的に貢献します。ストレスは血糖値を上昇させる要因となるため、鍼灸によるリラクゼーション効果は治療の補助として重要です。

④ 鍼灸治療の限界と注意点

一方で、現在西洋医学が万能でないように東洋医学、鍼灸治療にもいくつかの課題があります。まず、治療効果には個人差があり、すべての患者に有効とは限らないという事です。糖尿病に限ったことで言えば糖尿病の重症度や合併症の進行状況によってもその効果が異なるため、適切な診断と専門家による施術が合わせて必要となります。 さらに、現在でも研究が進んでいるとは言え、鍼灸治療は薬物療法の完全なる代替ではなく、あくまで補助的な役割を果たすものである点に留意する必要があります。軽度の方で医師からの同意を得て、施術を行っている方も多くご来院されております(運動療法・食事療法などで対応可能な患者様が多い印象です)、血糖値のコントロールが不安定な場合には、鍼灸治療のみでの管理は推奨されませんのでお気を付けくださいませ。

⑤ まとめと今後の展望

鍼灸治療は、糖尿病の補完医療として一定の可能性を十分に示しています。特に血糖値の調整や神経障害の症状緩和、ストレス軽減といった側面で有益な効果が期待できます。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、エビデンスに基づく適切な治療法の選択と、医師や鍼灸師との連携が重要です。

 

 

今週も読んで下さりありがとうございました。 今回は「鍼灸治療における臨床研究とそのレビュー」についてお話させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか? 鍼灸は古くからの伝統療法でありながら、現代の科学の力によってその効果が再評価されています。臨床研究の進展により、鍼灸がさまざまな症状に対して有効であることが示されてきました。今後も鍼灸の研究が進むことで、より多くの人々がその恩恵を受けられることを私は期待しています。皆さんも鍼灸に興味を持ち、実際に体験してみることで、その効果を実感していただければと思います。

来週は・・・今回の内容を踏まえ、「鍼灸治療の効果と効能、使われる経穴」に関してお話させて頂きます。どうぞ付き合い頂けますと幸いです。

セドナ整骨院・鍼灸院・カイロプラクティック 千葉駅前院 佐々木

鍼灸と糖尿病②

2024.12.13

こんにちは!セドナ整骨院・鍼灸院 千葉駅前院の佐々木です。
今回は「糖尿病の病態」についてお話させて頂きます。
前回の内容も踏まえ、糖尿病のメカニズムや進行過程、症状について掘り下げていきたいと思います。重複する内容もある為、おさらいも兼ねて是非お読みくださいませ。

・糖尿病とは
糖尿病は、血液中のグルコース(血糖)の濃度が慢性的に高くなる代謝性疾患です。その発症には主に、インスリンの分泌不足またはその作用の低下が関与します。この状態が続くことで、全身の臓器や組織に深刻なダメージを与え、特に血管、腎臓、神経、網膜などが影響を受けます。糖尿病の病態を理解するために、慢性的な高血糖の影響とその進行過程を詳しくご説明していきたいと思います。

1. 血糖値調節の破綻
通常、血糖値は膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンというホルモンによって調節されています。インスリンは、食後に上昇した血糖を血液から取り出し筋肉や肝臓、脂肪組織に取り込ませることで、血中のグルコース濃度を一定に保ちます。しかし糖尿病では、この調節システムが破綻してしまいます。主に次の2つの病態が絡み合って高血糖が持続します。

インスリン分泌の減少:膵臓のβ細胞が損傷または機能低下を起こし、インスリンの供給が不足する。これは1型糖尿病で特に顕著です。

インスリン抵抗性:インスリンが十分に分泌されていても、標的組織での作用が低下し、細胞がグルコースを取り込めなくなる。この状態は2型糖尿病の主な特徴です。


2. 慢性高血糖の進行と影響
慢性的な高血糖状態は、全身の代謝バランスを崩し、多くの合併症を引き起こします。

(1) 微小血管障害(細小血管への影響)
血管内皮細胞が高血糖にさらされることで、毛細血管が損傷し、以下の合併症を招きます。

糖尿病性網膜症:網膜の毛細血管が障害され、視力低下や失明の原因となります。

糖尿病性腎症:腎臓の糸球体が損傷し、蛋白尿や最終的には腎不全を引き起こします。

糖尿病性神経障害:末梢神経や自律神経が損傷を受け、手足のしびれや感覚鈍麻、消化器症状が現れます。

(2) 大血管障害
大血管における動脈硬化が促進され、以下のような疾患のリスクが高まります。

冠動脈疾患:心筋梗塞や狭心症の原因となります。
脳血管障害:脳梗塞や脳出血が発症するリスクが上昇します。
末梢動脈疾患:足の血流が不足し、潰瘍や壊疽の原因となります。

3. 糖尿病の進行過程
糖尿病の進行は、初期段階から後期段階まで、以下のように展開します:

初期段階(無症状期)
血糖値が基準値を超えても、自覚症状がない場合があります。この段階で早期診断と管理が行われない場合、次第に症状が現れます。

中期段階(症状の顕在化)
高血糖に伴い以下の症状が発生します:

◎多飲・多尿・多食
血中の糖を薄めるために喉の渇きが出てしまい、その結果頻尿が起こります。また異常な食欲の増加も見られます。

◎体重減少
自分の膵臓からでるインスリンが少ない、またはインスリンがうまく作用しないと、食事から摂ったブドウ糖をエネルギーとして使わずに、体内の脂肪や筋肉のタンパク質をエネルギー源として分解してしまうため、体重低下(食べてもやせる)が起きます。

◎倦怠感:血糖値が高いままではエネルギーが細胞に行き渡らないため、慢性的な疲労感が生じてしまいます。

後期段階(合併症の進展)
適切な管理が行われない場合、微小血管障害や大血管障害が進行し、前述のような重篤な合併症が現れます。


4. インスリン抵抗性のメカニズム
特に2型糖尿病では、インスリン抵抗性が発症と進行に深く関わっています。この病態では、インスリンの作用が標的細胞で効率的に発揮されず、以下の要因が原因とされています:

肥満と炎症:肥満に伴い、脂肪組織から炎症性サイトカインが分泌され、これがインスリンシグナルを妨害します。
筋肉の糖利用低下:運動不足により筋肉がグルコースを効果的に取り込めなくなる。
遺伝的要因:インスリン作用の低下に影響を与える遺伝的な変異が存在する。

 

今週も読んで下さりありがとうございました。

今回は糖尿病の病態についてお話させて頂きましたがいかがでしたでしょうか?糖尿病は早期の発見と適切な治療で進行を遅らせ、合併症を予防できる疾患です。

来週は今月の大きなテーマである糖尿病と鍼灸の関わりについて、「糖尿病に対する鍼灸治療における臨床研究、またそのレビュー

」に関してお話させて頂きます。糖尿病に対する鍼灸の効果について文献をもとにお話させて頂きますので、お付き合い頂けますと幸いです。

セドナ整骨院・鍼灸院・カイロプラクティック 千葉駅前院 佐々木

鍼灸と眼精疲労②

2024.11.08

こんにちは!セドナ整骨院・鍼灸院 千葉駅前院の佐々木です。

今回は「眼精疲労の病態」と「眼精疲労の原因への対策」、またセルフケアについてお話させて頂きます。

最初にお話させていただく「眼精疲労の病態」については解剖学と生理学のお話が出てきますので少し難しい内容となっていますが、最後までお付き合い頂けますと幸いです。

眼精疲労の病態 ・眼精疲労に関わる解剖学的構造

眼精疲労の状態を更に深く理解するために、まず目の構造と機能についてお話させて頂きます。

眼球は視覚情報を処理するための複雑な構造を持っており、代表的なものとして角膜、水晶体、網膜、毛様体筋、眼外筋などがあげられます。

水晶体:毛様体筋の働きによって形を変える透明なレンズで、厚みを変えることで焦点調整を行います。近距離での作業が多い場合、水晶体は厚くなり続けるため、ピント合わせの負担が増します。この過度なピント合わせが眼精疲労につながります。

毛様体筋:水晶体の厚みを調節する筋肉で、近くの物を見るときに緊張し、遠くの物を見るときに弛緩します。長時間の近距離作業で毛様体筋が緊張し続けると、筋肉の疲労が起こり、眼精疲労が引き起こされます。この疲労感が続くと、焦点を合わせにくくなる「調節機能の低下」も招きます。

角膜 :眼球の最前部に位置する透明な膜で、光を屈折させ、眼内に導く重要な役割を果たしています。長時間のパソコンやスマートフォン作業では、まばたきの回数が減り、角膜の表面が乾燥しやすくなります。角膜の乾燥は「ドライアイ」を引き起こし、眼精疲労の一因にもなります。角膜が乾燥すると酸素供給が低下し、視覚がぼやける感覚や異物感などを生じやすくなります。

 瞳孔:目の中央にある黒い円形の部分です。実際には光が目に入る穴であり、光を取り込むための「窓」の役割を果たします。瞳孔そのものには色素がなく、目の中に入った光が奥にある網膜(もうまく)に吸収されほとんど反射しないために黒く見えます。

虹彩:瞳孔の周囲を取り囲むようにある色素膜で、いわゆる茶色や黒色などの瞳の色がある部分です。虹彩の中にある環状の筋肉(括約筋)と放射状の筋肉(拡張筋)を働かせることで瞳孔の開き具合を調節し、光の量を調整する役割を担っています。明るい場所では瞳孔を収縮させ、暗い場所では拡大させています。明るすぎる環境や、光を発する電子機器を見ると虹彩が頻繁に収縮と拡張を繰り返し、疲労の原因となります。また、瞳孔を長時間収縮させていると筋肉の緊張が続き、目の疲れを感じやすくなります。

 網膜:目の内部に薄く張っている膜状の組織で、光を電気信号に変換する視細胞(桿体細胞と錐体細胞)が含まれています。明るさの変動が激しい環境は網膜に負荷をかけ、視細胞の機能を低下させる可能性があり、眼精疲労や視力低下の一因となります。

眼外筋 :眼球の運動を担っている筋肉で、眼窩(がんか)、つまり眼球を入れる骨の窪みの内側にあります。視線を上、下、左、右、斜めに動かす役割をそれぞれの筋肉が果たしており、以下の6つの主な筋肉から構成されています。

上直筋(じょうちょくきん) – 眼球を上方に動かす

下直筋(かちょくきん) – 眼球を下方に動かす

内直筋(ないちょくきん) – 眼球を内側(鼻側)に動かす

外直筋(がいちょくきん) – 眼球を外側(耳側)に動かす

上斜筋(じょうしゃきん) – 眼球を内側および下方に動かす

下斜筋(かしゃきん) – 眼球を外側および上方に動かす

 

上記した毛様体筋と同じように、長時間同じ距離で物を見続けたり一点に集中して見続けたりすると、筋肉が過緊張状態に陥り、特に電子機器の使用時は、目の調節と輻輳(両目が同じ対象物に焦点を合わせるための動き)が長時間続くため、筋肉に負担がかかります。 このように解剖生理学的にみると眼精疲労は毛様体筋や眼外筋の過剰な緊張や、角膜の乾燥、網膜への負荷など、眼球の構造的な働きが過度に使われることで起こります。特に現代の電子機器の長時間使用は負担をかけやすく、眼精疲労を引き起こしやすいです。 また目の筋肉や血管は自律神経によって制御されており、交感神経と副交感神経のバランス視覚的なストレスが続くと、交感神経の活動過敏が促進され、毛細血管の収縮、血流の低下、目の酸素不足が生じ、このような状態が長時間続くと、眼精疲労が慢性化し、疲労感や頭痛さらには不眠症や集中力の低下などの全身症状を伴うことがあります。

 

◎眼精疲労の原因への対策

では次に、眼精疲労を防ぎ、目を労わるための具体的な方法についてご説明致します。

・定期的な休憩を取る 何度も記載していますが目の疲れを感じる原因の一つは、近くの物を長時間見つめ続けることです。実は対策は最も簡単で、定期的に遠くを見る習慣をつけるだけで目の筋肉(特に、焦点を合わせるために使われる筋肉)の緊張をほぐし、疲労を軽減することが期待できます。 具体的な目安としてはアメリカの検眼士ジェフリー・アンセルム医師考案の「20分に一度、20フィート(約6メートル)以上離れたものを20秒間見る」という20-20-20ルールがおすすめです。

・正しい姿勢と画面配置を保つ 姿勢が悪いと、目だけでなく首や肩など全身にまで負担がかかります。画面の配置や姿勢に配慮し、体全体に余分な負担がかからないように以下のポイントを参考に環境を改善しましょう。 画面の高さ:自然な視線の高さを維持するために画面の上端が目の高さか、やや下になるように調整しましょう。

画面との距離:画面と目の距離は40~70cm程度を目安にします。画面に近づきすぎると目が疲れやすくなりますので、少し距離を取ることを意識しましょう。

姿勢:背筋を伸ばし、肩の力を抜いて、リラックスした姿勢を心がけます。椅子の高さを調整し、足が床にしっかりとつくようにするとよいです。

・目を温める 温かいタオルなどで目の周りを温めることで血行を促進し、疲れを感じにくくする効果が期待できます。温かさでリラックス効果も得られ、特に一日中パソコン作業をした後や寝る前におすすめです。 温かいタオル(電子レンジで数十秒温めると簡単に用意できます)を目に当て、2~3分ほどそのままにします。寝る前でなければ、温めた後に冷たいタオルで数秒冷やすと、血行促進により一層の効果が得られます。 (温めたタオルで火傷をしないようにお気を付けください)

・目の体操を行う 目をぎゅっと閉じて3秒間キープし、ぱっと開けます。これを5回程繰り返します。 数秒ほどの簡単な手順で血流改善や目の筋肉の緊張を緩める効果が期待できます。

・目に優しい環境を整える 目の疲れを軽減するためには、作業環境も大きく影響します。特に照明や画面の明るさに気を付けることが大切です。 照明と画面の輝度:画面の明るさと部屋の明るさを同じ程度に調整することが大切です。画面や照明がもう一方よりも明るすぎたり、逆に暗すぎたりすると、目が疲れやすくなります。

・規則正しい生活と食事 目の健康を維持するためには、生活習慣も見直す必要があります。バランスの取れた食事と規則正しい睡眠が重要です。 睡眠:目の疲労を回復させるためには、質の良い睡眠が欠かせません。適切な睡眠をとることで、目だけでなく体全体の疲れも癒されます。 栄養:ビタミンAルテインを含む食品は目の健康に良いとされています。野菜(特に緑黄色野菜)や果物、魚をバランスよく摂取しましょう。

 

 

今週は「眼精疲労の病態」と「眼精疲労の原因への対策」、またセルフケアについてお話させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか? セルフケアの中でも特に「目を温める」はタオルやホットパックの重みによって眼球が圧迫され、アシュネル反射という副交感神経を優位にしたり、血圧を下げるなどのリラックスした状態になりやすくなる反射が起こるため、効果が期待できます。日中の疲れをリセットし、深い眠りにつく準備にぜひ取り入れてみてください。

来週は・・・「眼精疲労に対する鍼灸治療の効果と効能」、「使われる経穴」についてお話させて頂きます。お読みいただけますと幸いです。

今週も読んで下さりありがとうございました。

セドナ整骨院・鍼灸院・カイロプラクティック 千葉駅前院 佐々木

鍼灸と月経前症候群(PMS)④

2024.10.25

こんにちは。セドナ整骨院・鍼灸院 千葉駅前院の佐々木です。

今回は「PMSの文献レビュー」「PMSのメタアナリシス・引用文献」についてお話させて頂きます。

◎PMSの文献レビューに関して

鍼灸の効果を評価する為にランダム化比較試験(RCT)や準ランダム化比較試験(CCT)などの試験方法を用いた研究が広く世界で実施されています。

ランダム化比較試験(RCT)・準ランダム化比較試験(CCT)とは、個人の背景因子の偏り(交絡因子)をできるだけ小さくし、ある試験的操作を行うこと以外は公平になるように対象の集団を無作為に複数の群に分け、その試験的操作の影響と効果を測定し、明らかにするための比較研究です。薬物や治療法を適正に評価するための方法として、よく採用される試験方法です。

PMSを題材とした試験は日本でも過去に行われており、鍼灸がPMS症状を緩和することは示唆されています。 2016年に発表されたレポートでは、月経前のイライラを主訴としてPMSの診断基準を満たしている女性を対象に、鍼灸治療を行った群と鍼治療を行わなかった群に分けて、SRS-18質問票を用いて精神状態の測定を行い治療効果を比較しました。
その結果、鍼灸治療を行ったグループは、鍼治療を行わなかった群と比較して症状の主観的な改善が見られました。 特に、主訴であったイライラを含む精神症状の改善が報告されています。また国外で行われたRCTでは、症状の緩和、特に身体的な症状(頭痛、腹部の痛み、乳房の張りなど)が軽減されたと報告されています。

◎PMSのメタアナリシス

複数のRCTを統合したメタアナリシス研究でも、鍼灸治療がPMSに対して有効である事が示唆されています。

メタアナリシス研究とは、前述したランダム化比較試験(RCT)など複数の原著論文のデータを定量的に結合させる統計学的研究手法です。ひとつひとつの研究の結果が矛盾している場合でも、たくさんの研究結果を解析することで、より総合的な評価をすることができます。

2020年に発表されたメタアナリシスでは鍼灸治療がPMSの症状を改善すること、特に心理的および身体的な両方の側面で症状の軽減が認められました。この研究ではPMSの症状を緩和するメカニズムとして、鍼灸が中枢神経系に働きかけ、脳内の神経伝達物質(一例としてセロトニンやエンドルフィン)の分泌を促進する事が発表内では挙げられており、体内の神経伝達物質のバランスが整えられることで、PMSの症状が緩和されるとされています。

例として挙げた「セロトニン」はPMSやPMDD(月経前不快気分症候群)などの精神面の症状と深い関係にあるため、ここで補足として少しだけお話させていただきます。

◎セロトニンについて

セロトニンは別名「幸福ホルモン」とも呼ばれる気分や感情の安定に重要な脳内の神経伝達物質で、

・喜びや快楽、意欲などを司るドーパミン
・緊張や不安、積極性を司るノルアドレナリン

の2つのホルモンのバランスを調節する役割を担っています。
そのためセロトニンが不足してしまうとイライラやネガティブな感情を引き起こしたり、やる気が起きないなどの様々な症状が出るようになります。 生理前の黄体期にエストロゲンが減少するとセロトニンも伴って減少するようになっており、この時にセロトニンが不足しやすいです。 

セロトニン不足への対応策として、

・栄養バランスの良い食事

・セロトニンの合成に必要な必須アミノ酸であるトリプトファンを含む食品の摂取

・日光浴

・良質な睡眠

・適度な運動

などがあげられますが中でも運動は特に効果的とされており、海外でも研究が行われています。今回は日常に取り入れやすい3つをご紹介させて頂きます。

1つ目はウォーキングやジョギングなどの有酸素運動です。

特に一定のリズムで行なうことでセロトニンの分泌を刺激するとされています。 目安としては週に3〜5回、20〜30分行うことで、心拍数を上げつつも無理のない範囲で継続できます。
また公園など自然の多い場所を歩くとストレス軽減効果がさらに高まります。 ご紹介する中で最も日常生活に取り入れやすいため是非ご活用ください。

2つ目はヨガストレッチです。

ヨガやストレッチは、凝り固まった筋肉をほぐして全身の血流を改善し、心身のリラクゼーションを促しストレスを軽減する効果があります。 特に深い腹式呼吸を取り入れるとさらに効果的です。呼吸は副交感神経を刺激し、セロトニン分泌を更に高めます。

3つ目はリズム運動です。

リズム運動とは、一定のリズムで身体を動かすことで、脳内でセロトニンの生成を促進する効果がある運動法です。
また自律神経のバランスを整える作用や体内時計を整える効果もあるため、質の高い睡眠を促進し、全体的なストレス軽減に寄与します。 リズム運動にはウォーキング、ジョギング、ダンス、水泳などが含まれます。 特に、ダンスやエアロビクスなどの音楽に合わせた運動は脳の報酬系を刺激し、モチベーションの向上やポジティブな感情を引き出す効果があります。
気持ちの面でも運動の楽しさを感じやすく、継続しやすい点もメリットです。グループで行うと他者との交流もストレス軽減に寄与し、社会的なつながりが心の健康を支える事にもつながります。 目安としては毎日15〜30分。最初は短い時間から始め、徐々に時間や強度を増やすことが推奨されます。 以上3つが、セロトニン分泌を促す運動です。

身体的な面でも精神的な面でも効果を感じられるかと思いますので、無理のない範囲で是非取り入れてみて下さい!

 

引用文献

H. フリーマン、E. リケルズ「月経前症候群の有病率」産婦人科

R.ヨンカーズ、K.オブライエン、S.エリクソン「月経前症候群」ランセット

五十嵐 誠「月経前症候群の治療における鍼治療」

『伝統中医学ジャーナル』第 30 巻、第 1 号

K. チェン「PMS に関連する気分障害に対する鍼治療」中国医学研究

L.スミス「月経前症候群に対するストレスとホルモンの影響」女性の健康ジャーナル

アーサー・C・ガイトン 、ジョン・E・ホール「ガイトン生理学」

編 日本理療科教員連盟、公益社団法人東洋療法学校協会、著 教科書執筆小委員会「新版 経絡経穴概論」

磯部哲也「月経前症候群の精神症状に対する鍼治療効果の比較試験」

BABジャパン出版局 「セラピスト」隔月刊2月号

Berger, B. G., & Motl, R. W. (2000).Exercise and mood: A selective review and synthesis of research employing the Profile of Mood States. In R. N. Singer, H. A. Hausenblas, & C. M. Janelle (Eds.), Handbook of sport psychology (pp. 631-647). Thaut, M. H. (2005). Rhythm, Music, and the Brain: Scientific Foundations and Clinical Applications. Routledge.

 

今週も読んで下さりありがとうございました。 今回は鍼灸の効果への評価に関する内容でしたが、聞きなれない用語も出てきて、少し難しく感じられた部分もあったかと思います。
それでも、鍼灸の世界を少しでも身近に感じていただければ幸いです。
鍼灸が皆さんの健康管理やセルフケアの選択肢のひとつとなることを願っています。

PMSについてのシリーズは一度ここで区切りとなりますが、今月のブログはいかがでしたでしょうか?

もしここについて掘り下げて欲しい等ご要望があれば是非お聞かせください!

来月からはまた新しい題材でブログを更新していきますので、お読みいただけますと幸いです。

セドナ整骨院・鍼灸院・カイロプラクティック 千葉駅前院 佐々木

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