こんにちは!セドナ整骨院・鍼灸院 千葉駅前院の佐々木です。
今回は「IBS(過敏性腸症候群)に対する鍼灸治療における臨床研究、またそのレビュー」についてお話させていただきます。
最後までお付き合い頂けますと幸いです。
◎ IBS(過敏性腸症候群)に対する鍼灸治療における臨床研究、またそのレビュー
IBSの治療は薬物療法や生活指導を中心として行われますが、近年、補完医療として鍼灸治療が注目されています。
以前のブログで過敏性腸症候群(IBS)は、便通異常(下痢、便秘、あるいはその両方)を主な症状とした腹痛や腹部不快感を伴う慢性的な消化管疾患であること、脳と腸の密接な関係、またそれに伴って身体的な側面のみならず、精神的な側面にも影響を及ぼすことについてお話させて頂きました。
今回は自律神経系、また内分泌系への鍼灸の作用に焦点を当て、IBSに対するそれぞれの臨床研究をみていきましょう。
まず前置きとして用語について解説しておきます。
・試験方法について
鍼灸の効果を評価する為にランダム化比較試験(RCT)や準ランダム化比較試験(CCT)などの試験方法を用いた研究が広く世界で実施されています。
ランダム化比較試験(RCT)・準ランダム化比較試験(CCT)とは、個人の背景因子の偏り(交絡因子)をできるだけ小さくし、ある試験的操作を行うこと以外は公平になるように対象の集団を無作為に複数の群に分け、その試験的操作の影響と効果を測定し、明らかにするための比較研究です。薬物や治療法を適正に評価するための方法として、よく採用される試験方法です。
・メタアナリシスとは
メタアナリシス研究とは、前述したランダム化比較試験(RCT)など複数の原著論文のデータを定量的に結合させる統計学的研究手法です。ひとつひとつの研究の結果が矛盾している場合でも、たくさんの研究結果を解析することで、より総合的な評価をすることができます。
◎IBSに対する鍼灸治療の臨床研究
研究例1:Wang et al.(2020年)の研究では、IBS患者120名を対象に、鍼治療が症状改善に及ぼす影響を調査しました。この研究では以下のようなグループ分けと施術が行われました。
治療群:
主要な経穴(天枢、大腸兪、足三里など)を対象に週3回、計8週間の鍼治療を実施。
対照群:
偽鍼(皮膚に針を刺さない治療)を使用。
治療終了後、治療群ではIBS症状重症度スコア(IBS-SSS)による腹痛スコアや主観的な生活の質(QOL)が大幅に改善し、症状の再発率も低下しました。一方、対照群では有意な変化が見られませんでした。この結果から、鍼治療はIBS症状の緩和に有効である可能性が示唆されました。
研究例2:Zhao et al.(2019年)は、鍼灸がIBS患者の自律神経機能に与える影響を研究しました。IBSは脳腸相関の乱れが発症の一因とされており、自律神経系へのアプローチが重要視されています。研究では、特定の経穴(内関、足三里、関元)への鍼刺激が迷走神経を活性化し、交感神経と副交感神経のバランスを整えることで、腹痛や不安感が軽減されることが確認されました。
◎システマティックレビューとメタアナリシス
複数の臨床研究を統合的に分析したレビューやメタアナリシスも進められています。
Sun et al.(2021年)は、IBS患者を対象とした15件のRCTを分析し、以下の結果を報告しました。
主要な成果:
鍼灸治療を受けた群では、腹痛や便通異常の改善が対照群と比較して有意に高いことが確認されました。また、患者のQOLスコアも向上しました。
限界点:
偽鍼を用いた研究の不足やサンプルサイズのばらつきが、エビデンスの強度を制限する要因とされました。
・鍼灸がIBSに与える長期的効果
Lin et al.(2022年)のレビューでは、鍼灸の治療効果が短期的な症状緩和に留まらず、継続的な施術により症状の再発率が低下する可能性が示唆されています。特に、副腎皮質ホルモンやセロトニンの調節作用がIBSの慢性症状改善に寄与するメカニズムとして挙げられています。
◎鍼灸の生理学的メカニズム
鍼灸がIBS症状を改善する可能性があるメカニズムは、以下のように考えられています。
・脳腸相関の調整
鍼灸を用いた施術によって迷走神経や中枢神経系を刺激することで、腸管運動を正常化し、腸内環境の安定化を図ります。
・抗炎症作用
IBSでは腸粘膜の軽度な炎症が観察されることがあり、鍼灸が炎症性サイトカイン(例:IL-6やTNF-αなど)の産生を抑制することで、炎症を軽減する効果が期待されています。
・心理的ストレスの軽減
IBSはストレスが引き金となることが多く、鍼灸によるリラクゼーション効果がストレスホルモン(コルチゾール)の低下をもたらすことで、症状の緩和が図られると考えられています。
IBSに対する鍼灸治療は、症状緩和やQOLの向上に有効であることが臨床研究やレビューから示されています。特に、自律神経系への作用や抗炎症効果、心理的ストレスの軽減といった多面的な効果が注目されています。しかし、研究デザインや標準化の課題が残されており、今後のさらなる研究が期待されます。IBS患者の治療選択肢を広げるために、鍼灸が補完医療の一つとして確立される日が近づくことを願っています。
また、鍼灸治療は現段階ではあくまで補助療法的な位置づけにあり、薬物療法や食事療法と組み合わせて活用することが重要です。(重症度があがれば上がる程、これに該当します)
専門家との連携を取りながら、西洋医学と東洋医学を融合させより効果的な治療を目指していきましょう。
今週もお読み下さりありがとうございました。 今回は「IBS(過敏性腸症候群)に対する鍼灸治療における臨床研究とそのレビュー」についてお話させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
鍼灸は肩こりや腰痛など、筋肉に対してのアプローチが得意だというイメージをお持ちの方は今回の内容を少し意外に感じられたのではないでしょうか。鍼灸が得意とする自律神経へのアプローチは、刺激を介して内臓、ホルモン系へ作用することが出来ます。こちらを踏まえ、次回は「鍼灸治療の効果と効能、使われる経穴」に関してお話させて頂きます。セルフケアについても触れていきますので、診断までとはいかずとも消化器系のお悩みをお持ちの方の参考になれば幸いです。
セドナ整骨院・鍼灸院・カイロプラクティック 千葉駅前院 佐々木