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鍼灸はなぜ痛みを和らげるのか?~触圧覚編~

2026.08.27 | Category: 鍼灸

皆さんこんにちは!セドナ整骨院千葉駅前院、鍼灸あん摩マッサージ指圧師の佐々木です。

皆さんは子供の頃に怪我をしたことはありますか?

私はドジなもので、一日に最高で13回程体を何かしらにぶつけたことがあります。この記録を超える方にお会いしたことは今まで一度もないのですが(そもそもぶつけた回数を覚えている方は稀有かと存じますが)もしいらっしゃればぜひお聞かせください。

さて、皆さんは痛いときにどうやって対処されますか?

止血、消毒、絆創膏や湿布を貼る、軟膏を塗る、いろいろな方法がありますよね。しかしそれ以前にもっと痛みを感じたその瞬間にしたくなる対処法があるはずです。

「痛いの痛いのとんでいけ」

そう言いながら痛む場所を撫でさする。親や友人にしてもらった経験がある方は多いはずです。普段肩こりや腰痛で悩まれている方も、無意識のうちに痛い場所、肩や腰を手で押さえたり、撫でさすっていることが多いのではないでしょうか?

そしてそうやって触れると痛みが不思議と少し和らぎますよね。

実はこの痛みを和らげる方法は、体に備わった生理的なメカニズムを利用したもので、ゲートコントロール理論と呼ばれています。

そしてなんと、鍼灸の鎮痛効果の一部はこの理論を利用して得られていると考えられています。

痛みのメカニズム

この理論を理解するため、まずは痛みの通り道について学んでいきましょう。

まず、皮膚や筋肉などから入る痛みの刺激は、感覚を伝える神経の末端にある感覚受容器(感覚のセンサー)を通じて痛みの電気信号(インパルス)に変換されます。その電気信号は、感覚を伝える神経によって脊髄(脳から続く太い神経の束)を経由して、脳へと上っていきます。そして、脳のほぼ中央に位置し感覚情報を中継する視床や、脳の表面部分にあり痛みの感覚を感知する大脳皮質に送られるのです。

そして、「痛いの痛いの飛んでいけ」のメカニズムであるゲートコントロール理論が関係しているのは、この痛みの伝達経路の途中にある背骨の部分、より具体的には脊髄の背中側にある「脊髄後角」という場所です。

ここには、痛み信号を遮ったり、時には増幅したりする神経回路が存在し、痛みの情報を調節する重要な機能を持っています。それでは、この場所が舞台となるゲートコントロール理論とはどのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。

ゲートコントロール理論とはなにか

脊髄後角の場所は脊髄の灰白質(脊髄の中央に位置し、灰色がかったところ)の後ろ側(背中側)の出っ張った部分を指し、末梢神経から痛みや温度などの信号を受け取る神経細胞と、脳へ信号を送る神経細胞、そして脳からの信号を受け取る神経細胞が集まっています。

それらの神経細胞が繋がってできた神経回路が、条件によって脳へ痛みの信号を伝えたり、伝えなかったりします。その様子が、まるで「門(ゲート)」を開閉するかのように痛みの信号の伝達を調節(コントロール)していることから、「ゲートコントロール理論」という名が付けられたのです。

この理論は、カナダとアメリカの研究者であるMelzackとWallによって1965年に発表され、その後、誤りが指摘されたり、新しい発見によって修正されたりしてきましたが、痛みが神経の中だけで決まるのではなく、途中で調節されるという基本的な考え方は現在も重要なものとして知られています。

ゲートコントロール理論の主役となるのは、脊髄後角の神経回路にある「膠様質(SG)細胞」と呼ばれる神経細胞です。

この細胞は、体から送られてきた痛みなどの信号を、脳に向けて送る「T細胞」という神経細胞に、どのくらい伝えるのかを調節する役割を持っています。つまり、T細胞の働きを強めたり弱めたりする「調節役」です。

イメージするなら、痛みの信号が通る道の途中にいる「門番」のようなもの。この門番がゲートを開けば、痛みの信号は脳へ伝わりやすくなります。反対に、ゲートが閉じれば、痛みの信号は脳へ伝わりにくくなります。では、このゲートは一体、何によって開いたり閉じたりするのでしょうか?

ここでもうひとつ知っておきたいことがあります。

実は神経は1本の道ではありません。

痛みや触った感覚など、刺激の種類によって、通る神経線維が異なります。

たとえば、同じ目的地へ向かう場合でも、電車の路線のように、神経にもそれぞれ異なるルートがあるのです。

皮膚を触ったときに感じる「触覚」と、何かに強くぶつかったときに感じる「痛み」では、主に通る神経線維が違います。

鍼灸治療でも、こりのある場所に鍼が入ったとき、「ズーン」とした独特の鈍い感覚を感じることがあります。この感覚は「ひびき」「得気」と呼ばれることがあり、鍼灸では施術中に感じる特徴的な感覚のひとつとして知られています。では、これらの神経線維と「痛みの門」は、どのように関係しているのでしょうか?

まず、体に痛みが加わると、その信号はAδ線維とC線維という、比較的細く、信号を伝える速度が遅い神経線維を通ります。

この信号によって、SG細胞の働きが弱くなります。

すると、痛みを伝えるゲートが開き、T細胞が活発に働き、その結果痛みの信号が脳へ伝わり、私たちは「痛い」と感じます。

ところが、ここで皮膚を「さする」「押さえる」といった刺激が加わると、違う反応を起こすのです。

こうした刺激は、Aβ線維という、太く、信号を伝える速度が速い神経線維を通ります。

そして、このAβ線維からの信号によって、SG細胞の働きが強くなります。

すると、痛みを伝えるゲートが閉じ、T細胞へ伝わる信号が弱くなります。

そうして脳へ届く痛みの信号も弱くなり、「痛みを感じにくくなる」と考えられているのです。

「痛いところをさすると少し楽になる」という、私たちが何気なく行っている行動にも、このような神経の仕組みが関係しているのです。

鍼灸治療で行われる「接触鍼」(小さい子供や感覚が過敏な方に用いる刺入しない対応の鍼)も、この仕組みのひとつを利用していると考えられています。

皮膚に軽く触れたり、刺激を加えたりすることでAβ線維を刺激し、痛みを伝えるゲートを閉じる方向に働きかけるのです。つまり、「どんな刺激を体に加えるか」によって、痛みの信号が通る神経のルートが変わり、その結果として痛みの感じ方も変化するというわけです。

鍼灸は「痛みの門」にも働きかける?

では、鍼灸はこのような痛みの調節にどのように関係するのでしょうか。その仕組みのひとつとして研究されているのが、「内因性オピオイド」です。

内因性オピオイドとは簡単にいうと、私たちの体の中で作られる、痛みを和らげる働きを持つ物質です。脊髄後角にある神経細胞には、この内因性オピオイドを受け取る「受容体」が数多く存在しています。

まだ詳しい仕組みのすべてが明らかになっているわけではありません。

しかし、鍼灸による刺激によって脊髄後角の神経回路で内因性オピオイドが働き、痛みの信号を伝える神経細胞の働きを弱めることで、脳へ向かう痛みの信号を弱くしている可能性が考えられています。

「やさしく触れる」だけでも痛みが変わる?

この仕組みについて興味深い研究があります。東京都健康長寿医療センター研究所の堀田晴美博士と渡邉信博博士らは、皮膚へのやさしい刺激が痛みを和らげる仕組みについて研究しました。

実験では、ラットの体の一部の毛を刈って皮膚を露出させ、そこに「マイクロコーン」と呼ばれる、とても小さな突起がたくさんついた器具をやさしく押しつけました。この突起は、高さ0.3ミリメートル、先端の直径がおよそ0.04ミリメートルという非常に小さなものです。

10分間この刺激を続けると、皮膚に触れ始めてすぐに、脊髄での痛みの信号が弱まりはじめました。

さらに、刺激を終えたあとも10分以上にわたって、痛みを和らげる作用が続きました。そして、内因性オピオイドの受容体の働きを邪魔する薬を脊髄に投与すると、この痛みを和らげる作用がなくなることも確認されました。

つまり、皮膚に加えたごく小さな刺激が、体の中にある痛みを和らげる仕組みにつながったと考えられるのです。

また、この研究にはもうひとつ興味深い発見があります。

マイクロコーンによる刺激が、どの神経線維を通って脊髄へ伝わっているのかを調べたところ、ゲートコントロール理論で痛みを和らげる働きを担うと考えられていたAβ線維ではなく、Aδ線維とC線維によって伝えられていたのです。

「Aδ線維とC線維は痛みを伝える神経じゃないの?」そう思われるかもしれません。確かに、これまでAδ線維とC線維は、熱や痛みなどの強い刺激に反応する神経として考えられていました。

しかし最近の研究では、これらの神経線維の中にも、触れる刺激を伝える種類があることがわかっています。その代表的なものが「低閾値C線維(C-LTMR)」です。この神経線維は、手で皮膚に触れたり、ゆっくりとなでたりするような刺激に反応し、心地よさを感じさせる働きがあることで注目されています。ここでいう刺激は、「ギュッ」と押すような刺激ではありません。そっと触れる、ゆっくりなでるような、もっとやさしい刺激をイメージしてください。

また、人や動物を対象とした研究では、この低閾値C線維への刺激によって、痛みを和らげる効果が得られたという報告もあります。

私たちが何気なく「痛いところをさする」こと。そして、鍼灸で皮膚にやさしく刺激を加えること。一見すると単純な刺激に見えても、その裏側では、痛みの信号を調節する複雑な神経の仕組みが働いているのです。

もし撫でさすっても取れない痛みでお困りの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度鍼灸を試してみてはいかがでしょうか?

選択肢の一つとなれることを願っております。

セドナ整骨院千葉駅前院

鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師 佐々木

【参考文献】

Melzack R, Wall PD(1965).Pain mechanisms: A new theory.Science,150(3699):971-979.

Basbaum AI, Bautista DM, Scherrer G, Julius D(2009).Cellular and molecular mechanisms of pain.Cell,139(2):267-284.

Millan MJ(2002).Descending control of pain.Progress in Neurobiology,66(6):355-474.

「東洋医学はなぜ効くのか」著:山本高穂、大野智

Ossipov MH, Morimura K, Porreca F(2014).Descending pain modulation and chronification of pain.Current Opinion in Supportive and Palliative Care,8(2):143-151.

Han JS(2004).Acupuncture and endorphins.Neuroscience Letters,361(1-3):258-261.

Watanabe N, Piché M, Hotta H(2015).Types of Skin Afferent Fibers and Spinal Opioid Receptors that Contribute to Touch-Induced Inhibition of Heart Rate Changes Evoked by Noxious Cutaneous Heat Stimulation.Journal of Pain Research,8:421-430.


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